工作機械主軸の動特性を非接触で把握する研究
・渦電流ブレーキを用いた非接触動的主軸試験の検証
現在,切削加工において精度の高いものをいかに効率よく作るかということが求められています.
しかし,びびり振動という振動がこの高精度・高効率な加工を妨げています.
びびり振動が発生すると,図1のような「びびり面」と呼ばれる状態となり,表面性状を著しく劣化させてしまいます.
図1 びびり面
他にも,工具や工作機械に大きな負担を与えることから,工具の異常摩耗や工作機械の故障を引き起こす恐れがあります.
びびり振動発生の原因としては,機械構造系の動剛性不足や不適切な切削条件が考えられます.
びびり振動が発生しない適切な切削条件を定めるためには,
主軸の動特性を同定し,切削現象をモデル化,系の安定性を解析する必要があります.
主軸の動特性を同定するための従来の主軸試験として図2のようなハンマリング試験というものがあります.
図2 ハンマリング試験の様子
ハンマリング試験は必要な機材が少なく,試験が短時間で終了するという利点があります.
しかし,高速回転する主軸に対して試験を行うことが困難であることから,回転中の主軸の動特性同定が出来ないという欠点があります.
この回転中の主軸の動特性同定が出来ないというハンマリング試験の欠点を解消する主軸試験として,
非接触動的主軸試験(Contact-less Dynamic Spindle Testing:CDST)
というものがあります.CDSTは非接触なため,回転中の主軸の動特性同定を可能にし,試験も自動化されていることから,主軸回転中の正確な動特性同定を行うことが出来ます.
既存のCDSTとして主軸に取り付けた疑似工具を電磁石の制御によって吸引加振する手法(1)が提案されています.
この手法は任意の回転数の工作機械主軸に対して,任意の周波数の加振を行うことが可能なため,停止や回転している主軸の静的,動的な特性を評価することが出来ます.
一方で,コイルに流す電流に制御が必要であるので,実験装置が大掛かりになっていしまい,利便性を有していないという欠点があります.
そのため,システムが簡潔で制御を必要としないCDSTが求められています.
そこで本研究では,外部制御を必要とせず,システムが簡潔なCDSTとして
渦電流ブレーキの原理を用いた非接触動的主軸試験の開発
を目的としています.
渦電流とは,伝導体を鎖交する磁界の時間変化に基づく電磁誘導の現象によって伝導体に発生する渦を描く電流のことです.
そして,渦電流ブレーキとはその渦電流によって発生する制動力のことで,本研究ではこの制動力を主軸を加振する力と捉えることで非接触な主軸試験を可能にしています.
システムの全体図は図3のようになっており,主軸は疑似工具に置き換え,直下に配置した磁石を用いた加振器に挿入されます.そして,主軸を一定の速度で回転させ,
同時に加振器によって疑似工具を一定の周期で加振させます.そして,加振によって得られた疑似工具の変位・加振力を測定する操作を回転数を変えて繰り返し行い,動特性を同定します.
図3 システム概要
このシステムは加振力の測定が困難であるので,現在は加振力の同定方法の検討に取り組んでいます.更には,十分な加振力を得るために,磁力の強化にも取り組んでおり,ハルバッハ配列
(2)と呼ばれる特定の方向への磁場強度を最大化出来る磁石配列を採用し,最適な磁石配列の作成を行っています.現在,作成している磁石配列を図4に示します.
図4 磁石配列
*参考文献
(1) M. Rantataro, J.-O. Aidanpaa, B. Goransson, P. Norman : Milling machine spindle analysis
using FEM and non-contact spindle excitation and response measurement, International
Journal of Machine Tools & Manufacture, Vol. 47, (2007) 1034
(2) C Xia, et al : Modering and analyzing of magnetic field of segmented Halbach Array permanent magnet
machine considering gap between segments, IEEE Transactions on Magnetics, 50, (2014) 1-9.
http://www-mm.hm.t.kanazawa-u.ac.jp/
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